卵巣機能不全 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.18

卵巣機能不全(らんそうきのうふぜん)

執筆者: 横谷 進

概要

 卵巣は、主に2つの機能を持っている。第1はホルモンを合成することであり、第2は成熟した卵子を形成して排卵することである。卵巣が何らかの原因で障害されると、多くの場合はこの両方の機能が障害される卵巣機能不全が起こる。

 卵巣の働きは、小学校低学年まではほとんど発揮されず、平均10歳頃からホルモンの分泌が盛んになって、その結果、女子の二次性徴が現われて進行し、平均12歳すぎに初経を迎えてその後に排卵を伴う周期が確立する。したがって、小児の卵巣機能不全はそれが始まる時期によって現われ方が異なり、また、治療の目標も異なってくる。その点が主に二次性無月経で現われる成人期発症の卵巣機能不全との大きな違いである。

 なお、思春期以降の無月経は必ずしも卵巣機能不全を意味しない。女性としての二次性徴が正常に進んでいながら無月経である場合には、子宮の欠損(ミュラー管無形成)、膣閉経、処女膜閉鎖などの卵巣機能不全によらない別の疾患を鑑別することが必須である。

 また、表現型が女性である(または女性に近い)性分化異常症が、卵巣機能不全を疑わせる症状で思春期年齢で見つかることがある。アンドロゲン不応症、46,XY complete gonadal dysgenesis(旧称XY female)、混合性性腺形成症などがそれらの例である。原発性性腺機能不全の場合には、こうした疾患を鑑別診断に含めて精査し、正しい診断に基づいて、遺伝カウンセリングを含む対応をすべきである。

病因

 卵巣の機能は、図1に示したように、視床下部・脳下垂体からのホルモンにより調節されている。LH(黄体化ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)という2つのホルモンを合わせてゴナドトロピン(Gnと略す、性腺刺激ホルモンとも呼ぶ)と言うが、卵巣はGnの働きにより初めて成熟し、その機能を発揮する。したがって、卵巣機能不全は、卵巣自体の障害だけでなく、視床下部・脳下垂体の障害によっても生じる。

 卵巣機能不全の主な病因を表1に挙げた。

 この中で、小児期に最も頻度が高いのは、ターナー(Turner)症候群である。その原因は、X染色体の全体または少なくとも短腕遠位側の大半のモノソミーを呈する細胞系列を含むことによる。卵巣異形成が起こりやすいために約80%で無月経であり、月経が始まる場合にも早発閉経(premature menopause)に至ることが多い。ターナー症候群では、ほとんどの場合に卵巣機能不全以外に低身長や他の特徴を伴うので、それらにより早期診断されることが期待される。

 小児がん経験者(CCS:Childhood Cancer Survivors)では、約30 Gy(グレイ)以上の頭部放射線照射を受けた場合に数年を経過して、視床下部障害による卵巣機能障害が起こりうること、また、造血幹細胞移植に伴うブスルファンなどの抗腫瘍剤や、5-10 Gy以上の骨盤部放射線照射を受けた場合に、卵巣障害による卵巣機能不全が起こりうることを認識した上で、前向きにフォローアップすることが求められる。


図1. 内分泌系(ホルモン)による卵巣機能の調節


表1. 視床下部・脳下垂体損傷による内分泌障害

病態生理

 卵巣機能不全の主な病態生理は、卵巣起源の性ホルモンの不足により説明できる。

 卵巣から分泌される性ホルモンには、卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プロゲステロン)、男性ホルモン(アンドロゲン)の3種類がある。卵巣機能不全では、これらのうちエストロゲンの不足が最も重要である。正常児では、エストロゲンは幼児期からごく少量分泌されているが、平均10歳頃からゴナドトロピンの刺激により分泌が増加する。エストロゲン増加の結果、乳房の発達が始まり、2年余りで成熟に至る。子宮も並行して発達し、子宮内膜が増殖してエストロゲン分泌の一時的な消退が起こると初経を迎える。エストロゲンの骨への作用は、骨端線の閉鎖していない(つまり成長の途中にある)骨の成長と成熟を促し、したがって、思春期の成長スパート(平均11歳)を起こさせると同時に、骨成熟により成長を終了に向かわせる。また、エストロゲンは骨へのカルシウムの蓄積を強く促進して、およそ9-16歳の間に骨塩量を著しく増加させる。卵巣機能不全では、これらのエストロゲンの作用が起こらない。したがって、二次性徴が始まる前に卵巣機能不全に陥れば二次性徴が全て欠如し、もし、二次性徴の進む間に起これば二次性徴の停止という形で現われ、また、二次性徴の完成後に起これば二次性無月経を中心とする病状で現われる。

 一方、陰毛、腋毛の発生や皮脂腺の活発化はアンドロゲンに依存している。一般に、女子では副腎皮質と卵巣に由来するアンドロゲンがおよそ半々で働いていると言われているため、卵巣機能不全において、陰毛は少ない傾向が認められるが個人差が大きい。アンドロゲン不足の生理的意義についてはよく研究されていない。

臨床症状

自覚症状


 前述のように、発病の時期により二次性徴の欠如、または停止、二次性徴完成後の無月経の、いずれかで気づかれる。これらについて、長い間悩みながら過していることも多い。

他覚症状


 思春期における身体的変化には個人差が大きい(初経年齢などの思春期の兆候の標準偏差はおよそ12か月である)が、平均的な年齢とそれを過ぎたら遅れていると判断できる年齢が分かっていることは重要である。図2に、日本人女児における二次性徴発現のおよその時期を示した。二次性徴が発来しない、停止している、といった疑いは、このようなレファランスと比較して判断すべきである。例えば、13歳0か月で乳房の発達が全く見られなければ、「遅れている」あるいは「欠如の可能性がある」と考えて、精査の対象にすることが重要である。

 先天的な原因による場合には二次性徴が欠如するので、ある意味で分かりやすい。しかし、後天的な原因により二次性徴開始後に発病した場合には気づかれにくい。ある程度の二次性徴の進行の途中で「足踏み」している疑いがあれば、成長曲線を描くことも助けにしながら、注意深く調べる必要がある。エストロゲンが不足していれば、思春期の成長スパートが起こらなくなるので、成長曲線でそれを確認できる。


図2. 正常日本人女児における二次性徴ごとの発現時期の範囲

検査成績

内分泌検査


 エストラジオールは、最も強力な作用を持つエストロゲンで、思春期年齢で血中濃度が上昇する。卵巣機能不全では思春期年齢でも感度以下のことが多い。

 卵巣を刺激する作用を持つGn(LH、FSH)は、ともに思春期に増加する。このうちFSHは卵胞成熟に不可欠なホルモンで、卵胞が準備されていないとフィードバックによりFSHは上昇する。したがって、原発性卵巣機能不全(卵巣自体の障害)では、FSH(とLH)は高値を示し、二次性卵巣機能不全(視床下部・下垂体の障害)では、FSH(とLH)は低値を示す。GnRH(LHRH)負荷試験を行えばGnの基礎値だけよりも正確に病態を把握できる。ただし、FSHのフィードバックは5-9歳頃には強くなく、この年齢では原発性卵巣機能不全でもFSHが上昇しないことがあるに点に注意を要する。

 先天性副腎のうち、StAR異常症では副腎不全症状などにより、新生児、乳児期に診断されることが多いが、CYP17異常症は、幼児期以降に高血圧と二次性徴の欠如で見つかることが多い。高血圧でレニンが低値の場合には、ODC(デキシコルチコステロン)高値によりCYP17異常症が強く疑われる。

画像検査

 超音波検査またはMRIで、子宮の発達が遅れていることがしばしば確認できる。卵巣は、萎縮しているか、または超音波検査で同定できないことが多い。
 
中枢の原因が疑われれば、脳腫瘍などを見逃さないために、頭部MRIで視床下部・下垂体を調べることが必要である。

 骨密度は、卵巣機能不全ではほとんどの症例で低値である。低値であれば診断を確認できるだけでなく、治療経過の観察の上でも初期から骨密度を測っておくことは有益である。

染色体検査

 二次性徴の発現が遅れている女子で、FSHが高値である場合には、卵巣障害の原因が判明していない限り、インフォームドコンセントの上で染色体分析を積極的に行う。ターナー症候群の率が高いが、その他の性染色体異常が見つかることもある。

診断・鑑別診断

 卵巣機能不全の診断には、上記の臨床症状が非常に重要である。その上で、血中エストラジオールの低値、子宮の未成熟、骨成長(骨年齢)の遅延、骨密度の低下、などが認められれば、診断は確定する。

 卵巣機能不全の病因を知ることは、治療や適切な対応のために不可欠である。基礎値またはGnRM試験でのFSHは重要で、前述のように、これにより障害部位を知ることができる。病歴、身体所見も考え合わせて病因を絞り込んだ上で、候補となる病因を確定判断するための検査を行う。その中には、例として、染色体分析、血中プロラクチン、血中DOC、頭部MRIなどが含まれる。

 卵巣機能不全は、典型的であればその診断を迷うことは稀である。軽い(あるいは不完全な)卵巣機能不全の場合には、その診断は時に困難である。前述のCCSの場合には、頭蓋照射後数年経過してから顕在化することが多く、その途中では不完全な卵巣機能不全が見逃される可能性がある。また、表1に記載しなかったが、甲状腺機能亢進症などの別の症状が、卵巣機能不全を引き起こすことがあるが、こうした場合も卵巣機能不全は軽いことが多い。

治療

 成人における卵巣機能不全の治療では、不妊治療も重要になるが、ここではそれ以外の治療、すなわちホルモンの補充について述べる。

二次性徴を発現させる治療


 小児における卵巣機能不全に対する補充治療の目的は、二次性徴の開始、進行、完成をはかり、その経過で骨密度を十分に高め、また、成人身長を適切にすることである。

 二次性徴をいつから発現させるかは、図2の標準的時期を参考にして、あまり遅れすぎないことが心理的にも骨密度の上昇の上でも望ましい。一方、エストロゲンは骨成長を促進するために、あまり早く開始すると成人身長を損失するので、身長についても考慮する必要がある。ターナー症候群では、もともと低身長であることが多いので、やや遅く12-14歳で開始すべきであると言われている。

 また、エストロゲン投与のスケジュールについて言えば、徐々に増量することにより、生理的な速さで二次性徴を進行させられることが分かっていて、成人量の1/10-1/8量で開始することが薦められている。

 これらのことを考慮した上で、著者が実際に行っているエストロゲン補充療法を図3に示した。なお、日米で最もよく使われているプレマリン錠(0.625mg)は主成分エストロン(E1)サルフェイトであるが、経口投与すると、肝における一次通過で、一部分がエストラジオール(E2)に変換されることによって効果を現わす。プレマリンには、肝への薬物の負荷(肝機能障害は実際には多くないが)、肝への直接のエストロゲン作用による凝固因子などの増加、血中E2増加に個人差が大きいことなどの問題がある。一方、エストラダームMは、エストラジオール0.72mgを含有する経皮吸収剤である。プレマリンの弱点を持たず、より生理的な作用が期待されることから、ガイドラインではそちらの方が第一に薦められるようになってきている。

維持療法

 二次性徴がほぼ完成され、エストロゲンが成人量に達すると、初回の月経(性器出血)の時点、または成人量で約6か月を経過した時点で、HRT(ホルモン補充療法ともいわれる)維持療法に移行する。生理的状態では、排卵後に形成された黄体から約14日間にわたって、黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌され、その分泌が終了すると、厚くなっていた子宮内膜が維持できずに剥がれて月経が始まる。これを模して2週間ほどの黄体ホルモン製剤の服用を追加するのがHRTである。

 いくつかの方法があるが、著者の用いている方法は、エストロゲン(プレマリン)を21日間投与し、後半の12日間に黄体ホルモン製剤(ヒスロン、プロベラ)を併用して、22日より両者とも中止する。毎月の服用の日付が一定になるので、28日周期よりも分かりやすく、著者は毎月の初日にスタートして月末に月経が起こるようなスケジュールを薦めている。エストロゲン単独投与は子宮内膜癌を増加させるが、10日以上の黄体ホルモンの併用により、危険は回避できる。若い女性では、もともとエストロゲンが高いのが普通なので、少なくとも40歳を越えるまではHRTが薦められる。骨密度の維持のためにも必須である。


図3. 二次性徴発現から完成までのエストロゲン補充療法:少量からの段階的増量法

予後

 卵巣機能不全は、視床下部・脳下垂体・卵巣への直接の障害に基づく場合には、それ自体の回復の可能性は小さい。しかし、その場合にも、卵巣機能不全による不利益はホルモンの補充によりかなり防げる。

最近の動向

 ターナー症候群では、アメリカ、欧米を中心にしてガイドラインが公表されている。

 しかし、日本ではまだ発表されていない。アメリカでは、成人でプレマリン錠(0.625mg)を1日に2-4錠が薦められており、日本ではほとんど1-2錠が用いられている。若い女性でのエストロゲンの最適な量は今後の課題である。

 補助医療の進歩はめざましく、中枢性の原因(低Gn性卵巣機能不全)では、特に挙児の可能性が高まってきている。卵巣自体の原因では、そこから卵の採取まで導くのは困難が大きい。しかし、CCSでは例えば思春期の女性であれば、腫瘍治療開始前に卵を採取すれば、未受精卵のままで凍結保存する技術が確立してきているので、将来自らの遺伝情報を伝えられる妊娠が、可能になると考えられる。

参考文献

1) 横谷 進:卵巣機能不全の思春期・若年女性に対するEBMに基づいた性ホルモン補充療法は何か? 五十嵐隆他編:EBM 小児疾患の治療2007-2008.中外医学社.2007年2月.pp246-249.

2) 横谷 進:性腺機能低下症(思春期)性ステロイド補充療法.阿部好文・西川哲男編:臨床に直結する内分泌・代謝疾患の治療のエビデンス.文光堂.2004年11月.pp123-125.

3) Saenger P, Wikland KA, Conway GS, et al. Recommendations for the diagnosis and management of Turner syndrome. J Clin Endocrinol Metab 86:3061-3069,2001.

4) Bondy CA. Care of girls and women with Turner syndrome: a guideline of the Turner Syndrome Study Group. J Clin Endocrinol Metab 92:10-25, 2007.

(MyMedより)推薦図書

1) 緒方勤 著:ターナー症候群の遺伝学,メディカルレビュー社 2003

2) 山城雄一郎:新小児科学 (Qシリーズ),日本医事新報社 2005
 

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